クリエイターが活動しやすい環境作りから
一般社団法人日本音楽出版社協会
会長 谷口 元
あけましておめでとうございます。
一般社団法人日本音楽出版社協会となり、ヴィジュアル・イメージも一新して迎えた新しい年、以下の四つをMPAの主要テーマとして取り組んでまいりたいと思います。
第一は、私的複製についてです。
私的録音録画補償金制度が崩壊の危機にあることは周知の事実です。私的録音録画を主要目的に(少なくとも主要目的の一つとして)製造販売されている機器・媒体が、補償金の対象に指定されることなく放置されています。補償金制度そのものを不要とする主張すら公然と存在します。
ラジオのスピーカーの前にテープレコーダーを置いて録音していた時代なら、それでもいいでしょう。しかし、今日、自分の機器を使って自ら複製することによって音楽や映像を購入する時代に、つまりユーザーが自分で完全なコピーを作れる時代に、私的複製を無制限に認めることは、音楽や映像を制作・販売するビジネスの存在を否定するものです。
不十分ではあっても、最低限の歯止めとして、私的録音録画補償金制度を堅持し、私的録音録画に供される機器・媒体に一定の補償金を課していく必要があります。補償金は、私的複製に使われる一切の機器・媒体を対象とすべきであり、私的複製できる機器・媒体を製造販売することによって利益を得ている製造業者は、当然のコストとして補償金を負担すべきです。
権利者は私的複製について権利を制限されています。権利を制限されている代価として、別により優れた方法が実現しない限り、補償金制度は機能させなければなりません。
第二は、著作権及び著作隣接権存続期間の延長です。世界の主要国の中で、50年を維持しているのは、日本、中国、カナダぐらいでしょうか。中国、カナダはそれなりの理由があるのはわかりますが、知財立国を標榜するわが国が50年で足踏みしているのは、海外から見ても不思議でしかないようです。
50年を過ぎた主要国の著作物を使用料を払わずに使っている肩身の狭さもありますが、それより著作権を主張できる期間を自ら20年も縮めてどこが知財立国なのか、我が国の政策の首尾一貫性の無さにあきれるばかりです。
また、著作権問題を文化の側面だけからみているきらいもあります。ビジネスとして文化や著作権を考えたとき、存続期間の延長は隣接権を併せて行う必要があります。実演家やレコード製作者と一体となって、著作物が享受される形ができあがるのですから。
第三に、海外市場への展開です。MPAは20年前にMIDEM(国際音楽産業見本市)への出展を音楽関係団体の協力を得て開始し、国際音楽著作権ビジネス・セミナー、日本のアーティストをライヴの形で紹介するジャパン・ナイト(JETROと共催)を実施してまいりました。一昨年からは、香港で開催されているミュージック・マターズに国際音楽著作権ビジネス・セミナーを移し、東南アジア市場における日本のプレゼンスの強化に努めています。
また、ICMP(国際音楽出版社連合)ポピュラー部門の理事として、国際的な連携にも積極的にかかわっており、NMPA(全米音楽出版社協会)、KMPA(韓国音楽出版社協会)に加え、香港音楽出版社協会とも会合を持つなど、交流の幅を広げております。
日本の音楽を世界市場に流通させ、また、そのために個々の海外市場及び我が国における法制度などの環境を整えることを併せて進めていく必要があると思います。
第四に、ネット上をはじめとする違法行為の撲滅です。単純に、ただの音楽はないという常識から始める必要があるように思います。全く同じ完全な録音物を手に入れたとしても、隣の友人は無償で、自分は有償だったとしたら、納得できないはずです。ユーザー以上に納得できないのは、創造し、提供する側です。世に送り出した作品が、いつの間にか有償無償入り混じって、しかも無償の方が多く流通しているとしたら、それはビジネスとは言えないでしょう。
以上の問題は、いずれの場合も我々だけの努力では解決できません。海外も含め、関係権利者及びその利益を代表する団体が協力する必要があります。今年は、関係各団体との関係強化を一層進め、クリエイターが活動しやすい環境づくりを目指して、みなさまとともに進んでまいりたいと思います。