CRIC月刊誌「コピライト」に桑波田会長のエッセイが掲載されました

 公益社団法人著作権情報センター発行の、月刊著作権専門情報誌「コピライト」に、桑波田会長のエッセイが掲載されました。
 内容は以下の通りです(「コピライト」2018年4月号より)。

テクノロジーの進歩と不即不離の音楽出版ビジネス

一般社団法人日本音楽出版社協会会長 桑波田景信

 音楽の聴かれ方がスマホの普及で大きく様変わりしたことと軌を一にして、音楽の使用形態も多様化しています。それに伴って音楽出版ビジネスに関心を持つ皆さんが増えてきており、毎年当協会が主催している「音楽著作権管理者養成講座」でも、27年目の昨年(2017年)は155名の受講生が修了されました。冒頭1限目の授業で私が受講生の皆さんにお伝えしたのは、「音楽出版ビジネスは作家を守るためにある」ということです。昨年から始まった関係4団体(日本レコード協会、日本音楽著作権協会(JASRAC)、日本音楽制作者連盟、当協会)が協調して行う「海外のフィンガープリント技術による邦楽曲の海外使用実績の実証実験」という新たなプロジェクトも、作家を守るための新しい取り組みのひとつなのです。そもそもこのプロジェクトの必要性を実感したのは、4年前に遡ります。恒例の国際音楽産業見本市「MIDEM」の帰途、ロンドン発の便を待つためにヒースロー空港の国際線ロビーにある回転寿司店に入ると、壁掛のモニターにはロンドンでもライブをしたばかりの「BABYMETAL」のライブ映像が映っています。頭上から鳴っている店内BGMは、直前に東京で聴いた音楽ユニット「Charisma.com」でした。寿司店という日本に近しい場所ではあっても、ロンドンで邦楽曲が映像・音声両方で使用されている現場に遭遇したことは、音楽出版社としての視野を海外に向ける必要性を痛感させられるものでした。
 音楽出版社特有の機能に“トラッキング”という業務があります。使用料がきちっと作家にまで入金されているかを検証するために、関係各所を遡って“追いかけていく”ことからこの呼び方になりましたが、日常的にその結果を報告されている立場としては、「この使用料は支払われていないだろうな、支払われていたとしても明細がないために権利者にまでは配分されないだろう」から、何らかの対策を講じなければという思いでした。その思いは、台北・上海でのアニソンイベントで、現地のファンが日本語で合唱する光景を体験することで確信に変わりました。
 さて、この状況を改善させるための方策は何か?
 ヒントは身近にありました。それまでの数年間、毎年ロンドンを訪問していたのは、そこに本拠を置くサウンドマウス社(以下S社)というフィンガープリント技術を使って放送番組のモニターをする会社を訪問するためでした。S社の創業者は作曲家です。自分の作品がBBC等で頻繁に使用されているのに著作権収入が増えないことに疑問を持ち、番組モニターのための会社を立ち上げたのです。いわば、作家が作家自身を守るために立ち上げた会社です。独自のフィンガープリント技術を開発してBBCやイギリスの徴収団体PRSと協力しながらモニターの精度に磨きをかけていきました。
 S社がモニターのために保有する洋楽曲のフィンガープリントは、約4000万曲。対して邦楽曲は、ほぼありません。前述の実証実験プロジェクトでは、レコード協会加盟社が保有する原盤の使用許諾のもとに(株)レコチョクが扱う邦楽曲110万曲を、まずフィンガープリント化して、S社がモニターしている各国の放送局での使用調査を始めます。モニターする放送局は年々増えてきており、欧州はもとよりアメリカ、アジアへも広がっています。こういった広範な調査ができるのは放送のデジタル化の恩恵です。番組表案のデジタル化、また放送番組の圧縮率を上げて膨大な放送データの容量を軽減できたことで、モニターサーバへの転送が可能になったわけです。
 世界には、多くの音楽に関係したフィンガープリント会社があります。楽曲検索アプリとして有名なShazamがAppleに買収されたのは最近のトピックでした。日本民間放送連盟とJASRACが取り組んでいる放送番組の全曲使用報告には、NTTデータの技術が使用されています。カタルーニャ工科大学の学内ベンチャーとして立ち上がったBMAT社は、IFPI(国際レコード産業連盟)との連携を強めています。このBMAT社は欧州各国のライブハウスやお店などに小型マイクを設置して、ネット経由で原盤モニターをしています。その先にはAI技術を活用してさまざまな演奏・アレンジから元曲を特定する技術を見据えているはずです。日本で誕生しているAIベンチャーの技術者も、AIが「自学自習」できるようになった今、不可能はないと断言しています。日本でその技術が開発されていくのかどうか、テクノロジーの進歩から目が離せない所以です。