2025年2月28日付
ジョナサン・ホ(フジパシフィックS.E.Asia)
香港
AI生成作品の著作権に関する政府の見解
香港政府は昨年実施したパブリック・コンサルテーションの概要を公表し、立法会での審議のための報告書も提出しました。このコンサルテーションでは、合計62件の書面による意見が寄せられました。その内訳は、著作権およびクリエイティブ産業から21件、IT業界から11件、知的財産および法律専門家から7件、その他20件でした。
このコンサルテーションでは、ライセンサーやユーザーの幅広い意見が集まりました。大多数の回答者は、現行の著作権条例がAI生成作品に対する著作権保護を既に提供していると考えています。一方で、一部の回答者はAI生成作品の著作権者やオリジナリティに関する明確なガイドラインを求めています。また、少数の回答者は、著作権は人間が作成したコンテンツや素材にのみ適用されるべきであり、AI生成作品には別の法律規定が必要だと主張しました。
政府の対応と今後の方針
政府は、様々な意見、現行の著作権条例、市場の状況、国際的な動向を考慮した結果、AI生成作品に関して実質的な立法改正を提案する理由はないと判断しました。AI生成作品の著作権者およびオリジナリティの問題については、ケースバイケースで判断されるべきとしています。また、政府は実務的なアプローチとして、既存の法律原則とその適用を説明するガイドラインを策定する方針です。
著作権侵害の責任に関しても、さまざまな意見が寄せられましたが、政府は現行の著作権条例の改正は必要ないとの立場を示しました。市場では契約による権利と義務の明確化が進んでおり、例えばAIシステムの所有者とユーザー間で契約により責任を明確にすることで対応可能であると考えています。
TDM例外(テキスト・データ・マイニング)について
TDM例外については、IT業界を中心とするユーザー側から支持を受ける一方で、著作権者側からは反対意見が寄せられました。支持派は、TDM例外がAI産業の発展を促進すると主張しましたが、著作権者側は、市場の既存および将来のライセンス契約に影響を及ぼすと懸念を示しました。
また、一部の意見では、TDM例外に「オプトアウト(適用除外)」の権利を設けるべきだとの提案もありました。政府は、国際的な事例を参考にしつつ、著作権者の利益を保護するために制限付きのTDM例外を導入する方針を示しました。これは、3ステップテスト(国際的な著作権ルール)に基づいてバランスを取るための措置です。加えて、政府は生成AIに関する著作権問題について、法的拘束力のないガイドラインを策定する意向を示しました。
中国
AIと著作権に関する法的議論
中国でもAI関連の著作権問題が議論されています。現行の法律でAI生成作品がすでにカバーされていると主張する意見がある一方で、急速に進化するAI技術に対応するために法律を改正すべきだという意見もあります。
著作権者の立場からは、AI生成作品には大量の既存コンテンツが含まれており、その多くが著作権で保護された素材であるため、著作権侵害による損害が甚大であると指摘されています。しかし、AI産業の急成長を背景に、現時点で著作権に関する法改正が行われるかどうかは未定です。
マカオ
音楽ビジネスの成長と観光業の影響
マカオでは、音楽コンサート産業の発展により、著作権管理団体MACAのパフォーマンスライセンス収益が大幅に増加しました。特に、香港の歌手やアーティストによる公演が好調で、その影響が顕著に現れています。
また、中国本土との間に新たに開通した橋の影響で、隣接する都市からの観光客が増加しています。一方で、香港と同様に、多くの地元住民が国境を越えて買い物や娯楽を求めて移動する傾向も見られます。しかし、中国本土からの観光客の流入によって、地元のホテルや小売業界が恩恵を受けており、国内経済の低迷を補う要因となっています。