ジョナサン・ホ(フジパシフィックS.E.Asia)2025年6月30日付

2025年6月30日付

ジョナサン・ホ(フジパシフィックS.E.Asia)

香港

 「Mid-Life Sing and Shine」成功の波及とチケット転売問題の再燃

 地元の歌唱タレント番組「Mid-Life Sing and Shine(中年歌って輝け)」は、5月中旬にカイタク・スポーツ・パークの大舞台で最終コンテストを開催し、同番組のさらなる成功を印象づけました。報道によれば、今シーズン(第3シーズン)は過去2シーズンよりも多くの才能ある歌手を輩出したとされています。特にこの最終コンテストは、多くの歌手にとって夢の舞台でのパフォーマンスの機会となりました。この番組の成功に刺激を受け、他のテレビ制作会社もさまざまな地元の歌唱・タレント番組の制作に乗り出しており、いくつかは海外のタレント番組制作会社と協業し、音楽ライセンスの使用が増加しています。
 
 一方で、同パークのオープン以来、アジアや国際的な歌手・グループによるライブコンサートが多数開催されています。しかし、チケット購入における実名登録制度が撤廃されたことで、再びチケット転売の問題が浮上しています。人気歌手のコンサートでは、チケットがわずか1分で完売することもあります。政府は取り締まり強化を謳っていますが、組織的な転売グループは摘発を避けるため、売れ残った席をあえて空席にしておく戦略を取っていると判明しました。転売価格は正規価格の4〜6倍にも達し、これによって売れ残り分の損失が補填されている状況です。ファンからは「正規ルートで購入できなかったうえ、空席が目立つのは残念」との苦情が寄せられています。

中国

 音楽著作権とファッション業界の連携強化、香港・マカオとAI創作に関するフォーラムを共催

 中国音楽著作権協会(MCSC)は、中国ファッションデザイナー協会と包括的な戦略的協力協定を締結しました。この取り組みは、地元のクリエイティブ業界における著作権意識の向上を目指すものであり、音楽がファッションショーにおいて極めて重要な要素であることが背景にあります。最近の大規模な国内ファッションショーでは、現代風のビートに乗せた民族音楽が使用されている例が見られ、この包括的協定はファッションショーでの多様な音楽のライブ演奏を促進することが期待されています。
 さらに、MCSCは香港のCASH(作曲家・作詞家協会)およびマカオのMACA(マカオ著作権協会)と共同で、香港デザイン学院と共に音楽フォーラムを共催しました。テーマは「AI支援による音楽創作」で、AIツールを音楽制作にどう活用できるかを探るものであり、クリエイティブ業界との公共的な関係構築も視野に入れています。

台湾

 ストリーミング収益に影響する権利主張の混乱

 台湾では、地域間の権利主張に関する対立が、ストリーミング配信における実演使用料収入に顕著な影響を与えています。複数の外国団体が機械的複製権と実演権の双方を主張しており、状況は複雑化しています。政府はすでに、すべての実演権ライセンスは地元で登録された著作権管理団体(CMO)から取得すべきであると発表していますが、問題は続いています。また、OTT(Over-the-top)サービスに関するライセンス料率も、現地の著作権局からの発表が未だになされておらず、収益見通しが不透明なままです。こうした状況により、全体のストリーミング収益のうち30〜40%が影響を受けていると見積もられています。

タイ

 AI時代の著作権改正に向けた議論と啓発活動

 タイでは、地元のさまざまな業界団体が、AI技術時代に対応するための著作権法改正案に関して共通の懸念を表明しています。これは、香港が直面した状況と類似しており、特にTDM(テキスト・データ・マイニング)例外に関する懸念が焦点となり、知的財産局の注意を引いています。同局は、近隣諸国の著作権法改正の事例を参照しながら検討を進めている段階です。
 こうした政府への働きかけに加えて、地元業界団体は大学と連携し、著作権意識と知的財産権の重要性を啓発するフォーラムを開催しています。これらは、今後テクノロジー主導で変化する市場環境において、基盤的な推進力となることが期待されています。

ライタープロフィール
j-ho

ジョナサン・ホ
香港を拠点とし、1986年から音楽業界で活躍。1998年Fujipacific Music (S.E.Asia) Ltd.マネージングディレクター。2007年から香港著作権管理協会(CASH)理事、香港音楽出版社協会会長。東南アジア地域の音楽出版社の集まりであるアジア音楽出版社協議会(AMPs)理事長でもある。