ジョナサン・ホ(フジパシフィックS.E.Asia)2025年2月28日付

2025年4月30日付

ジョナサン・ホ(フジパシフィックS.E.Asia)

香港

 カイタクスポーツパークの開業と広東語ポップ文化の再評価

 これまでの号でも触れられてきたように、新たな多目的スポーツ・エンターテインメント施設「カイタク・スポーツ・パーク」は、2025年3月1日の正式開業以降、さまざまなスポーツ大会や国内外の歌手・グループによるコンサートが各会場で本格的に開催されています。地元歌手ニコラス・ツェーによる初のコンサートシリーズは、メイン会場であるカイタク・スタジアムで4公演行われ、高く評価されました。
 これらのコンサートは、かつてカイタク空港の時代ににぎわっていた近隣地域「九龍城」の小売業にも好影響を与え、商機を呼び戻しています。今後も予定されているさまざまなコンサートやスポーツイベントのラインナップを考えると、興行ライセンス収入のさらなる増加が期待されます。
 また、シーズン3を迎えた歌唱コンテスト番組『Mid-life Sing Again』は、高い人気を保ち続けており、ネット上でも話題となっています。最近の放送では、広東語のカバーソングをテーマにした回が特に注目を集めました。これは、1980年代から90年代初頭にかけての「カントーポップ黄金時代」において、広東語カバーソングが一翼を担っていたことを再認識させるものでした。
 しかし、1990年代半ばには、ある主要ラジオ局が「地元のオリジナル楽曲のみを流すべきだ」として、カバー曲の放送を禁止する方針を打ち出しました。この急激な政策転換により、音楽の供給源が乏しかった当時のローカル制作会社は対応しきれませんでした。
 この歌唱番組におけるカバーソング特集では、「健全で活気ある音楽市場とは、あらゆる種類の音楽に開かれているべきだ」という点が改めて強調されました。
 

中国

 香港アーティストの中国公演と著作権料問題

 この1年の間に、香港出身の歌手によるコンサートが中国各地で数多く開催されていることが注目されています。これらのコンサートでは、香港発の楽曲が多く披露されており、それに伴って「上演権の許諾はどのように処理されているのか」「潜在的な著作権使用料収入はどうなっているのか」といった点に関心が集まっています。
 これまでの長年にわたり、中国における音楽著作権団体MCSC(中国音楽著作権協会)は、複数の都市で大規模コンサートを開催する主催者に対して法的措置を取ってきました。しかし残念ながら、その損害回収のために要する費用に見合うだけの賠償が得られていないというのが実情です。
 

フィリピン

 著作権ビジネスの連携強化とカウンタークレーム問題への関心

 5月21日から24日にかけて首都マニラで開催されたCISACアジア太平洋会議において、複数の地域出版社が各国の著作権管理団体との交流の機会を得ました。また、フィリピンの著作権管理団体FILSCAP(フィリピン音楽著作権協会)の設立60周年を祝う記念ガラディナーにも参加しました。
 この機会を活用し、いくつかの世界的な大手デジタルプラットフォームも出版社や著作権団体と面会し、今後のビジネス計画や地域での協業について意見を交わしました。会議で共通して関心が寄せられたのは、国や地域によって異なる「メカニカル権(複製権)とパフォーマンス権(演奏権)の分配」や「レパートリー(作品群)の権利表記」に関するカウンタークレーム(異なる主張)問題をどのように整理していくか、という点でした。
 

マレーシア

 著作権契約の全面開示を巡る混乱と懸念

 3月中旬、マレーシア政府は突如として新たな著作権管理団体(CMO)規制を発表しました。その中でも特に、著作権管理団体MACPおよび地元の会員たちにとって深刻な懸念となっているのが、「会員が保有または管理する楽曲の著作権契約をすべて開示することを著作権管理団体に義務づける」という規定です。
 この新規定に対して、MACPおよび作詞家・作曲家・出版社らは驚きを隠せず、膨大な文書作業が発生するうえ、商業的な契約内容を広範囲にわたって開示しなければならないことから、機密保持の観点でも重大な問題があると主張しています。
 さらに、この規制については、業界関係者への事前の意見聴取や協議が一切行われていませんでした。MACPは、特に大手出版社を中心とした会員から意見を集めており、業務の煩雑さと機密性の問題を理由に、この契約開示義務の撤回を政府に働きかける方向で検討を進めています。

ライタープロフィール
j-ho

ジョナサン・ホ
香港を拠点とし、1986年から音楽業界で活躍。1998年Fujipacific Music (S.E.Asia) Ltd.マネージングディレクター。2007年から香港著作権管理協会(CASH)理事、香港音楽出版社協会会長。東南アジア地域の音楽出版社の集まりであるアジア音楽出版社協議会(AMPs)理事長でもある。