2025年10月31日付
ジョナサン・ホ(フジパシフィックS.E.Asia)
香港
AI著作権改正案の見送りと音楽業界の警戒感
本年2月、香港政府はAI生成作品およびTDM(テキスト・データ・マイニング)例外に関する著作権法改正案について、パブリック・コンサルテーション(意見公募)を実施しました。
しかしながら、さまざまな不確実性や、知的財産関連業界からの強い反対意見を受け、改正案の検討は現時点で見送られている模様です。
一方で、複数の著名アーティストやソングライターが、自身の音源・写真・映像などを用いたAI生成コンテンツのあらゆる使用を禁止する旨を公式に発表しています。
また、各専門団体からは、現行の著作権保護期間を50年から70年へ延長し、国際的な基準と整合させるべきとの意見も出ています。現行制度のままでは、今後10年間で数多くのクラシックヒット曲がパブリックドメイン入りする見通しです。
経済・観光関連部門による積極的なプロモーション施策も功を奏し、小売業界の売上は堅調に回復。大型見本市や国際コンベンション、海外アーティストのコンサート、テーマフェスティバル、インフルエンサー招致キャンペーンなど、多岐にわたるイベントが展開されています。今年の見込みでは、コンサート関連収益が30%増、小売分野の収益が5〜10%増と予測されています。
中国
大湾区の音楽著作権強化と映像作品の権利処理問題
10月17日、中国北東部の青島市にて、第10回「中国国際著作権博覧会」と「大湾区音楽作品交流フォーラム」が共同開催されました。本イベントは、中国音楽著作権協会(MCSC)、香港作曲家作詞家協会(CASH)、マカオ著作権協会(MACA)の共催で行われ、大湾区における音楽作品の著作権保護の強化および文化・スポーツ産業の高度化促進を目的としています。
政府機関、業界団体、著作権管理団体、大学、音楽クリエイターなど、130名を超える代表者が参加。特に、音楽クリエイター・音楽業界・ユーザーの間でのバランスの取れた権利管理体制の構築と、ライセンスおよびロイヤリティの効率的な流通促進が主要テーマとなりました。
また、10月下旬に北京で開催されたCISACアジア太平洋会議では、映像作品の著作権処理をめぐる課題が議題に上りました。
現行法では、映像制作会社が音楽のシンクロ権や上演権をどの範囲でクリアすべきかが不明確であり、実務上の混乱を招いています。法律上、著作権は製作者に帰属するとされていますが、シンクロ権契約を結んだ作品であっても上演権使用料の徴収が行われていないのが現状です。
今回の議論を通じ、将来的には映画・テレビ作品に対する上演権使用料の徴収体制が確立されることが期待されています。
ベトナム
デジタルロイヤリティ急増とAI著作権改正への動き
ベトナム音楽著作権協会(VCPMC)は、2024年の年間収入が3930億ドン(約1,400万米ドル)に達したと発表しました。増収の主因は、デジタル配信からのロイヤリティ収入が急増し、全体の78%を占めたことにあります。デジタルストリーミングサービスの拡大により、地元インディーズアーティストがレーベルやメディアを介さずに市場で活躍する機会が増えています。
一方で、著作権意識の低さが依然として課題です。多くの地元音源や映像作品に無断使用素材が含まれており、協会は昨年、多数の違反事例を確認しました。そのうち、交渉または裁判を通じて解決したのはわずか30件にとどまります。
また、政府はAI生成作品およびTDM例外を対象とする著作権法改正案を新たに提案しています。

