ジョナサン・ホ(フジパシフィックS.E.Asia) 2015年1月23日付

2015年1月23日付

ジョナサン・ホ(フジパシフィックS.E.Asia)

香港

香港TVの開始した新サービス

2014年11月19日、香港TVはついに自社のWEBサイトとモバイルアプリでの放送を開始しました。最大で20万回のストリーミング再生回数が見込まれていました。同時に、香港TVはサブライセンス契約をデジタル配信の大手と結びました。まずは中国のTencent、続いて非常に多くの広東語ユーザーがいるため、マレーシアとシンガポールに拠点を置くAstroとも提携しました。放送されているドラマの多くは視聴者から高い評価を得ています。この制作チームは、香港ケーブルテレビから人員を採用して再編されたTVBテレビ(香港最大のTV会社)から来たスタッフです。

ATV香港の抱える深刻な問題について

その一方で、ATV香港は先延ばしにしていた職員の賃金引き上げ問題に直面しています。ここ数年間、株主や管理職との間に数々の経営問題を抱えており、ATVは新しい番組制作ができなくなってしまい、近年では再放送を繰り返さざるを得ない状況でした。当然、ATVには視聴者から沢山の苦情が寄せられました。それに加えて、期限切れとなる放送免許の更新という問題にも直面しています。
未解決の使用料を始めとした数々の放送権に関する問題は、すぐに答えは出ないでしょう。このように、いくつもの深刻な問題を抱えているにもにもかかわらず、経営陣は「ATVは香港で最も歴史あるTV局であり、出資をしてくれる予定の会社と協議の上、経営立て直しを継続していく」と表明しました。

オキュパイ・セントラルが与えた音楽業界への影響

香港の「オキュパイ・セントラル」は、徐々に撤去されて12月中旬に終結したと報道されました。エンタテイメント業界内でも、中立あるいは沈黙を守ろうとしていたグループが分裂したり、政治的立場を明らかにすることを強いられています。中立といっていた人たちの中にも中国寄りと言われるようになったグループもあります。デモに参加しない人からは、イベント実施を期待する声はありましたが、レコード会社やコンサートプロモーターズは、デモの期間中や中国のお祭りの間は、イベントのプロモーションやコンサートの開催を避けていました。

マカオ

MACAの文化振興活動について

数カ月にわたるマカオの主要カジノとの演奏権のライセンス交渉の締結問題に、ようやく出口が見えてきました。徴収団体のMACAは、徴収団体として法的立場を証明するための令状を元に、演奏権使用料の徴収について2014年4月に核心にせまりました。そして遂に、MACAは1つめのカジノとライセンス合意を取り付けました。徐々に他のカジノもそれに続きました。
MACAは、マカオの文化振興団体と協力して広報活動を始めました。MACAは単なる徴収団体としてだけではなく、文化活動団体としての役割も担っています。MACAは現地の音楽シーンを刺激するために、プロダクションに資金面での協力をしました。ポルトガル文化に影響を受けたことで、90年代には一部の作曲家たちがその才能を見出されました。香港で経験を積んだ彼らが、その後現地の音楽を牽引しています。このようなMACAの文化振興活動は、確実に現地の音楽業界の繁栄に大きな影響を与えてゆくでしょう。

中国

デジタルライセンスの普及について

ライセンスに関する協定の多くは、法的訴訟をきっかけに始まっているように思われます。デジタル配信のリーディングカンパニーであるTencentが良い例です。演奏権団体のMCSCとTencentが訴訟問題に発展してから3年が経ちます。これらの訴訟はケースによって違いはあるものの、徐々に改善の傾向にあります。最終的にTencentは、MCSCの管理下にある楽曲のデジタル配信許諾を取り付けました。その一方で、MCSCのメンバーではない音楽出版社からは、TencentはMCSCとだけの包括取引でどのようにビジネスをしていくのかという疑問が寄せられています。デジタル配信のライセンスは中国国内でもまだ統一されているとは言い難いのが事実です。プロバイダやモニタリング会社と協議しながら進めている会社もあります。それぞれの会社は全く違ったやり方で、他社のエリアとぶつからないようにしています。デジタル配信の共通認識が普及するにはまだ時間がかかるでしょう。

ライタープロフィール
j-ho

ジョナサン・ホ
香港を拠点とし、1986年から音楽業界で活躍。1998年フジパシフィックミュージック東南アジア支社長。2007年から香港著作権管理協会(CASH)理事、香港音楽出版社協会会長。東南アジア地域の音楽出版社の集まりであるアジア音楽出版社協議会(AMPs)理事長でもある。