2021年4月30日付
ジョナサン・ホ(フジパシフィックS.E.Asia)
香港
テレビ局の競争と香港ポップスの再燃
香港の主要テレビ局であるTVBは、今年2月から新しい経営陣の下、バラエティ番組や音楽番組を増やすべく、娯楽番組の編成に新たなる改革を実行しました。これは、非常に多くのメディア露出と取材を獲得中の人気男性アイドルグループ「MIRROR」を輩出した、急成長中のテレビ局「Viu TV」に対抗するためです。Viu TVは、香港の音楽シーンに新たなムーブメントを起こし、より若いアーティストを発掘しています。また、前回の東南アジアレポートでもお伝えした通り、IFPI及びCreateHK(香港政府が運営するクリエイティブ産業の振興を目的とした団体)が展開した「Music Must Go」プロジェクトにより、80年代から2000年代のカント・ポップ(広東語で歌われる香港のポップス)が再燃しました。これは、新型コロナウイルスの影響による景気後退が、厳しい競争下にある音楽やエンタテインメント業界に新たな機会を作るきっかけになったと見られています。
「ドライブ・イン・コンサート」という新しい試み
4月下旬に、カント・ポップ歌手であるロナルド・チェン(鄭中基、Ronald Cheng)が、香港経済の中心地である中環(Central)の湾岸地区で初のドライブ・イン・コンサートを開催しました。各車両は一定の間隔を保ち、それぞれ4人の定員が設けられていました。前方エリアのチケット料金は、1台最大
4名につき約770ドル(USドル)。後方エリアにいくと110~140ドル(USドル)程度の席もありました。香港のような人口が密集した都市の場合、実施可能な場所が限られていることから、ドライブ・イン・コンサートは挑戦的な試みだったと思います。未来の興行の形として、良い参考事例となったでしょう。
台湾
コロナ禍で活性化する台湾音楽シーン
香港と同様、楽曲制作を促進する強力なキャンペーンによって台湾の音楽シーンも活性化しています。アップテンポで高揚感のあるダンス・ポップと80年代のようなポップ・サウンドが流行し、音楽業界の最盛期を彷彿させています。この流れは、コロナ禍の不景気を脱却しようという意識が人々に働き、そのためにイージーリスニングまたは元気になるような楽曲を聴くようになったと捉えられています。また、台湾経済の停滞は業界を団結させ、各団体が協業することによりライセンス収入を伸ばそうという動きにもつながっています。著作権団体のMUSTと台湾のMPA(台北市音楽著作権代理人協会、Music Publishers Association Of Chinese Taipei)は、デジタルのライセンス契約をさらに促進させるため、台湾と海外の配信業者を連携させる活動を行っています。
中国
改正著作権法が来月より施行
2010年に改正された中国の著作権法は、2020年に再度改正案が採択され、来月新たに施行される見込みです。主な改正点は、政府が検討を重ね、規定した使用料率が盛り込まれている点です。著作権者側からエンド・ユーザーに課されていた高い使用料や、大量の独占的なライセンスは、市場の独占的支配や、利用可能な著作物が断片化する恐れがあるとして、ユーザーの不満が大きくなっていました。また本改正案は、著作権管理団体が非営利団体であり、法律に則り、且つその地域に登録された組織でなければならないと規定しています。さらに、映像作品(視聴覚作品)については、制作の当事者間で著作権に関する特段の取り決めがない限り、作品の著作権は製作者に帰属するという規則が導入されました。
シンガポール
改正著作権法の主な事項
政府は、2021年改正著作権法を発表しました。本法は、今年の中頃に施行される見込みです。本改正では、一般の国民が簡単に理解し読むことができるよう、条文を平易な英語の言い回しに変えています。また、送信権において、録音権の保護の条項が盛り込まれる予定です。さらに、著作権管理団体の設立と運営について、さらなる規制を設けるとしています。また、本改正で著作権の帰属についても明文化され、作品を創作した時点で創作した者に自然に著作権が発生し、契約によって権利譲渡ができる旨が定められています。教育目的または美術館、博物館や図書館での利用については、適正であれば一定の使用が認められるとしています。