ジョナサン・ホ(フジパシフィックS.E.Asia) 2017年11月1日付

2017年11月1日付

ジョナサン・ホ(フジパシフィックS.E.Asia)

香港

古き良き時代への懐古が音楽にも影響

 ここ数年の間、香港の政治的状況は混乱が続いています。しばしば、古き良き時代が再び戻ってくることを望む声も上がっています。文化の面では、若い世代の人々が、香港の中国返還(1997年)より前の時代へと自然に惹きつけられています。彼らは、1997年の時点ではまだ生まれてすらいませんが、彼らの作る音楽からは確かにその影響を感じ取ることができます。彼らは、まだ香港が中国の一部ではなかった時代へと戻りたいと望んでいるのです。その理由として、若い世代の持つ、政治的なものから社会保障まで多岐にわたるさまざまな側面での潜在的な不満があり、特に物価高に起因する、貧しく混雑した生活環境はその代表例です。古い楽曲のカバーや、さらには80年代の雰囲気や光景を感じ取ることのできる歌詞を、ノスタルジックなメロディーに乗せて作られた新たな楽曲まで登場しています。

スマホの台頭でバスでのビデオサービス中止に

 ビデオライブショーを扱うRoadShow社とBuspak社は、2つの大手地元バス会社にビデオサービスを提供する会社でしたが、深刻な財務損失を理由に、サービスの提供中止を発表しました。この2社は、スマートフォン時代の台頭以前には人気を博したものの、現在では、ほとんどの乗客はバスのスクリーンではなく、自分の携帯電話の画面を観ているようです。

デジタル関連企業が使用料の支払に苦労

 デジタルライセンスが絶え間なく分裂し続けていることにより、以前のように1つだけライセンスを取るのではなく、いくつものライセンス発行団体からライセンスを取るため、複数の地域で活動をしているような現地のデジタル関連企業の払う使用料が、さらに滞るようになりました。その他にも、マーケットを他地域へと広げようとしていたその他現地企業の中には、いくつものライセンス発行団体との交渉に応じるための十分な財源も手段もないと考え、計画を再検討しなければならなくなる企業も現れました。

中国

出版社がデジタル企業へのライセンス発行への対応策を提示

 前回リポートしたように、デジタル市場は、大手デジタル企業2社の独占的なデジタル協定についての彼らの懸念に、NCAC(国家著作権局)が対処をするよう促しました。この状況を沈静化するため、この大手2社は、互いにライセンスを発行し合う形で、それぞれの代表的な得意分野における利益を保護するための相互協定を結ぶことを発表しました。
 それにもかかわらず、この発表は意図した成果を得られなかったようです。問題は解決へとは至りませんでした。また一方、NCACからの要求に答えるため、いくつかのリージョナル出版社は、中国におけるデジタルライセンスについての友好的な解決方法をMCSC(中国音楽著作権協会)に対して提示しました。基本的にこの提案は、デジタル企業、特に先述の2社と取引するためにMCSCと連携してライセンス発行を行おうとするものでしたが、現在のところはっきりとした反響はありません。

インドネシア

大手国際デジタル企業、税金逃れで罰金徴収

 インドネシアでは、あるオーディオ・ビジュアルを扱う大手の国際的デジタル企業が、国内での収入に関してかけられた税金の支払いを逃れようとしたとして、インドネシア政府から罰金を徴収されるということがありました。この問題は、商業的な収益をあげている外国の、あるいは国際的なライセンス発行について、さまざまな関係当事者に対して警告を発するものとなりました。さらには、現地政府が同じような義務的かつ支配的なライセンス発行を統制するようになってきています。協会と出版社は、現在、先を見越した対応をとるため政府との議論を始め、また協会と出版社双方の複雑なライセンス発行システム構造について説明をしようとようと試みています。

シンガポール

出版社が大手ストリーミングサービス会社からの録音権放棄要請に反論

 シンガポールでは、著作権協会が出版社に対し、3つの選択肢のうち、1つを選ぶように要求する通告を出しました。その内容は、アメリカ合衆国で音楽ストリーミングサービスを提供するある主要な会社が、ストリーミングサービスについて録音権を放棄してほしいと主張しているという事例を伝えるものでした。それゆえ、協会はまず出版社に対して、録音権における使用料の取り分を減らすことを選択肢の1つとして提示しました。2つ目の選択肢は、著作権について法廷で争うというものであり、3つ目は法務省に仲裁を頼むというものでした。
 これに対し出版社は、当該事例はアメリカ国内で完結したものであって、録音権を放棄するといったような主張は、もはや効力を持つものではないと返答しました。また出版社は、協会が録音権について、デジタルライセンス市場においてはより多くの取り分を持つということを、かつて既に合意しているとも回答しました。

ライタープロフィール
j-ho

ジョナサン・ホ
香港を拠点とし、1986年から音楽業界で活躍。1998年フジパシフィックミュージック東南アジア支社長。2007年から香港著作権管理協会(CASH)理事、香港音楽出版社協会会長。東南アジア地域の音楽出版社の集まりであるアジア音楽出版社協議会(AMPs)理事長でもある。